谷中で愛される文化的なカフェ
谷中、根津、千駄木からなる谷根千(やねせん)エリアは、歴史ある寺院や戦前の家屋も多く残るスポットです。文豪も足しげく通ったとされるこの町には、古き良き時代の文化が息づいています。
JR日暮里駅からすぐのところには谷中霊園があり、真ん中を大きな道路が通っています。その道をひたすらまっすぐ進むと見えてくるのが、谷根千のメインストリートの1つである三崎坂です。
三崎坂から古い家々を見渡しながら歩いていると、古民家リノベーションカフェ「谷中ボッサ」が見えてきました。
「谷中ボッサ」はおよそ100年前に建てられた古民家を改装した喫茶店で、大きなガラス窓と観音開きの扉が印象的。古民家の落ち着きの中に店主のセンスが感じられる外観です。
コーヒーと絶品チーズケーキでゆるやかなティータイム
扉をあけると人の良さそうな店主と奥様が出迎えてくれます。
店内は心地のいいボサノバの音楽が流れていて、大きなブラジルのパレオや絵本が並ぶ本棚、ひっそりと売られている梅干しなどなんとも個性的な空間。
なんでこんなところにこんなものが…という物ばかりですが、一度座ったらほっとするような独特の雰囲気が漂っています。
マスターが持ってきてくれたお水のコップは日本風の湯飲み。メニューは風呂敷をリメイクしたものです。メニューを見ると、コーヒーや牛乳、料理に使用している素材の産地が明記されていて、とても親切ですね。
喫茶店らしくコーヒーを中心としたシンプルなメニューですが、専用の農家を持っているだけあって、自家製ジンジャーエールや国産の100%ジュースなどにも素材のこだわりが感じられます。
今回はダークブレンドとメイプルチーズケーキを注文。コーヒーは1杯1杯ハンドドリップで入れてくれます。ストーブにポットを乗せてお湯を沸かしているのもお友達の家に来たみたいで新鮮。良い香りと深煎りのコクがあるおいしいコーヒーでした。
メイプルチーズケーキも絶品。上の層はヨーグルト風味のチーズクリームで下は濃厚でやわらかく、ほんのりメープルシロップの味がするチーズケーキです。ケーキは日替わりケーキも含めて4種類ほど。他のケーキへの期待も高まります。
古さと新しさが共存する不思議なスペース
そこに居ると時間の流れを忘れるようなリラックス空間。それを演出しているのは店内の「さりげなさ」でしょう。ずっと前からそこにあったと思わせる素朴なインテリアや、マスターや奥様のフランクな接し方。
それが、お友達の家に遊びに来たような安心感を感じることができます。出てくるドリンクやお料理も、ただおしゃれに統一するのではなく、「谷中ボッサ」らしい独特なチョイスが面白いですね。
印象的だったのが、帰るお客さん全員が店主や奥様とお話をして帰っていかれたこと。「いつもありがとう」という常連さんから「前から来てみたかったんです」という遠方から来た方まで。自然とお話がしやすい空気ができているのだと感じました。
「谷中ボッサ」は、古き良き喫茶店のような雰囲気もありますが、新しいことにも寛容です。近くには美術館や博物館があり、東京芸大や東大などの大学が多いことから、アートへの関心が高い人も多いこのお店。
ディナータイムにアーティストを招いてイベントを行うなど、新しい文化を広げる交流も積極的に行っています。
古きを慈しむ心と創造を楽しむ好奇心を共有しあえる「谷中ボッサ」は、お客さんに愛されるカフェです。ぜひ下町の温かさや文化を味わう楽しみを感じてみてはいかがでしょうか。
Text by Asako Nakano