夏には、そんなシーンがよく合います。
今回は、なんとあのシャンパンの王様ドン・ペリニヨンにワインクーラーとして公式に認定された、日本の伝統工芸を紹介します。
それは日本の日常生活を支えてきた、伝統工芸・指物で作られた「桶」のワインクーラーでした。
指物とは?
指物(さしもの)とは、釘などの接合部品を使わずに、木と木を組み合わせて作られた建具や木製品のこと。
和箪笥(わだんす)などの家具、桶や樽など日用品が主に作られます。
また、伝統的な指物工芸技術そのものを指すこともあります。
平安時代に起源を持ち、茶文化隆盛と共に発展した京都の京指物、
江戸っ子らしい質素な東京の江戸指物、
遣唐使が持ち帰った唐の木製品に起源を持つ大阪の唐木指物が、
三大指物として知られ、指物師という専門の職人が、今も伝統を引き継ぎ現代に伝えています。
一般的な風呂桶
日本の桶文化
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざでも知られるように、江戸時代には、桶大工や桶結師(おけゆいし)と呼ばれる多くの桶専門の指物職人が生まれました。
桶は、側面の木と底の木を寸分の狂いなく組み合わせ、最後に主に竹などで出来たタガと呼ばれる輪で締めたもの。
金属を使わないため錆びる心配もなく、指物ならではのシンプルな作りの為、壊れた際の修理がしやすいといった点から、長年日本人の日常生活を支えてきました。
桶の修理を専門にする箍(たが)屋、なんていう職業もあったくらい。生活に密着していたんですね。
桶の製造風景を捉えた浮世絵(『冨嶽三十六景 尾州不二見原』葛飾北斎)
近頃は、日常生活ではあまり見られなくなった指物の桶ですが、思わぬ方向から、話題になり注目されています。
京指物技術を受け継ぐ中川木工芸の桶は、あのモエ・エ・シャンドン社の最高級シャンパンとして知られるドン・ペリニヨンのワインクーラーとして公認され、
ワールドクラスのシャンパンブランドと共に、世界中のフランス料理店やシャンパン愛好家を魅了しています。
京指物の繊細さがドンペリの魅力を引き出す
滋賀県にある中川木工芸は、京指物の1,000年以上の伝統を今に受け継ぐ、数少ない工芸店。
三代目中川周士さんは、三代目として、伝統工芸をどのように現代のライフスタイルに合わせていくか悩み、伝統技術を活かし曲線が美しい楕円形の桶をワインクーラーとして創りあげたそうです。
2010年、伝統工芸を探したまたま京都を訪れていたドンペリの醸造最高責任者であるリシャール・ジェブロワ氏に気に入られ、トントン拍子に公認ワインクーラーとして認められました。
最低でも5日かけて、それも200以上ものカンナを使って、1つの桶をつくり上げる京指物の職人技と、これまた歴史あるドンペリの匠のこだわりが、共鳴した瞬間だったのでしょう。
300個のドン・ペリニヨンロゴ入りのワインクーラーの受注を受けたそうです。
決して、最初はドンペリ用に作ったのではない点がすごいです。
高野槇という日本古来の木材で作られているこの桶は、その材質の特性から、水に強く結露をしません。
指物で作られる桶ですので、錆の心配もありません。
そう、このワインクーラー、フレンチ料理にもよく合うデザインや伝統技術に因る上品な見た目だけでなく、実は機能性も抜群なんですね。
外部リンク 中川木工芸 比良工房 シャンパンクーラー「Konoha」
伝統を現代に生かし、世界に伝える
伝統工芸は、「代々受け継ぎ、そのまま残す」というより、現代のライフスタイルや価値観に合わせ、技術を活かしていくという視点が必要です。
また、中川木工芸は、海外向けのブランドとして、三代目の名前から採られた「Shuji」を展開、海外の家具・雑貨の見本市などに積極的に参加しています。
広く、世界に発信しているんですね。
まとめ
日本の桶文化とフランスのシャンパン文化が、1000年の歴史ある伝統工芸と最高級シャンパンの出会いによって融合し、新たな価値を創っています。
産業革命以後、レガシーなものとして見られがちな日本の伝統工芸は、かつては日本人の生活に密着した技術であり、地域性と深く結びついた知恵が詰まっています。
島国という地域性と江戸時代の鎖国政策による独自発展がもたらし、現代に引き継がれてきた伝統は、紛れも無い日本の価値。
情報革命後の今、世界中が注目する新たな出会いのチャンスがまだまだ眠っていそうですね。
中川木工芸HP
http://www.nakagawa-mokkougei.com/