石油といえばアラブ首長国連邦という国の首都に建設されている石油を使わないゼロカーボンを標榜したスマートシティです。
構想から8年、着工から6年。
着実に建設を進めているマスダールシティは、最新技術を駆使した近未来都市というイメージを抱きがちですが、
実は、伝統技術をうまく取り込んだ、スマートな都市なのです。
その土地ならではの伝統的な知恵を駆使
マスダールシティは、灼熱の太陽が照りつける砂漠の国の町。
特に暑い季節の7月の最高気温は40度ほどまで上がり、冬でも25度程度まで上がるのが、アブダビです。
しかも降水量は年間とおしてゼロ。
そんなアラブ地方では伝統的に、太陽の熱を出来るだけ減らし、影を作り出して生活空間を確保するという考え方が根付いています。
それも、わざわざ影を作り出すための構造を作るというよりは、建物の構造上必要な柱などで、うまく影を作り出しているといった建築技法が発達しています。
建物が他の建物に影を作っている
その見た目も美しいイスラム伝統の窓
イスラム建築の特徴である、マシュラビーヤ。
風通し確保と、強い太陽光を適度に調節した自然採光、プライバシー保護などの機能がある、
イスラム伝統の窓枠まわりの工法です。
マスダールシティにも随所に散りばめられています。
もともとマシュラビーヤは、もともとイスラム教の女性のための工法という説があります。
肌を包み隠すことで、女性の神秘さを表現するイスラム文化圏ならではの工法です。
伝統技術と最新技術の融合
ウインドタワーをご存知でしょうか。
アラブ地方の伝統的な涼を取るための設備です。
上空の冷たい風をうまく建物内に取り入れるため、天然のエアコンと呼ばれています。
かつての生活を紹介するドバイ博物館で見ることができるようです。
マスダールシティには、高さ45メートルもの巨大なウインドタワーがあります。
風向きセンサー付きのウインドタワーは、より効率よく上空の冷たい空気を生活空間へと送り届けます。
外国の民間パートナーを受け入れる
マスダールシティは、アラブ首長国連邦国営の再生エネルギー事業です。
2008年のリーマン・ショックの影響などがあり、当初の構想や完成予定日がズレても、
構想を練り直し着実に事業が進んでいる様子は、安定感のある国が先導して行う事業だからこそなのではないでしょうか。
国際民間企業との提携も盛んに行われ、電子機器や医療、交通などさまざまな分野のソリューション事業を手がけるドイツのシーメンスが、戦略的提携パートナーとして参画、シーメンスビルに入居しています。
日本からも、三菱重工や東芝が事業に参画しています。
また、シティ内にあるマスダール工科大学は、マサチューセッツ工科大学(MIT)と提携しています。
マスダールシティは、世界各国の優れた技術と知恵が集結しているまちなのです。
マスダールシティ内のシーメンスビル
マスダールモデルは日本の都市開発の良い手本なのではないか
未来都市として、その外観や施設に注目が集まったマスダールシティ。
現在も着実に建設が進んでいる模様です。
マスダールシティは俯瞰した際の真四角な形や、聞き慣れないカタカナ用語が多いからでしょうか、どこか「無機質な近未来都市」のようなものを想像しがちですが、
その実は土着の地域性を大切にした温かいまちなのではないでしょうか。
日本では最近、三井不動産が主導する千葉県柏市「柏の葉スマートシティ」が話題ですね。
地震大国。四季がある。亜熱帯気候と寒帯気候が交互にやってくる。国土の8割が急斜面の山…
日本の土地性は世界的に見ても稀有なものです。
気候なども含めた土地性や土着の文化・精神性を重んじた上で、適切にIT技術を利用するといった本当にサステイナブルなスマートシティ。
実は日本こそ発展しやすく、世界にその成果をロールモデルとして発信できる環境にあるのではないでしょうか。