その企業こそ、「新世紀エヴァンゲリオン」などの人気アニメや、数ある食玩のフィギュア製造を手がける「海洋堂」です。
大阪府門真市(かどまし)に本社を置く海洋堂は、昨年の夏に、高知県高岡郡四万十(しまんと)町に、「海洋堂ホビー館四万十」をオープンさせました。
この「海洋堂ホビー館四万十」。フィギュアやガレージキットと呼ばれるホビーが1万点以上も置かれ、「ホビーの聖地」として名高いのですが、すごいのは、フィギュアの数だけではありません。
日の陰りを見せる日本の多くの産業が共通して持つ、「課題」へのヒントが隠された素晴らしい取組みだったのです。
場所柄で「非日常体験」を演出
「海洋堂ホビー館四万十」は、高知県高岡郡四万十町の、人里離れた山々をかき分けたところにあります。
いわば「辺鄙(へんぴ)」な場所にあるということ。
その辺鄙さは、ホビー館も自ら、「へんぴなミュージアム」と謳っているほどです。
しかし、この四万十町にホビー館を作ったのには、理由があります。
日頃から、人口が多く便利な都会に住んでいる人々が、日本一と言っていいほど不便な四国高知の、四万十町にあるホビー館を目指すことは、わざわざ不便な場所に足を伸ばす、という、いわば「非日常を感じる」体験になります。
「非日常体験」という「旅の醍醐味」が用意されているわけです。
また、四国地方に昔から根付く「お遍路さん」のような苦労をしてたどり着く「海洋堂ホビー館四万十」は、これまで海洋堂が歩んできた1960年代からの歴史と実績を体感できる場所にもなっているということです。
日本のフィギュアの魅力がぎっちりと詰まっている、まさにホビーの聖地になっているのですね。
まちぐるみで、ホビーの聖地を作る
この「海洋堂ホビー館四万十」の取組みは、海洋堂だけのものではありません。
町役場などの行政の全面的な協力を得て行われている取組みです。
例えば、ホビー館は、平成21年度に廃校になった「打井川小学校」の体育館を改築して作られています。
少子化によって廃校に追い込まれてしまった小学校を、町と提携して再利用しているのです。
過疎で悩む地域に新たな人の集まりと賑わいを起こすという、町と地域住民の想いが込められた、地域活性化のシンボルとしてのホビー館でもあるのです。
四万十を日本のホビー文化の拠点に
海洋堂と、町行政の取組みは、紹介してきたホビー館だけに終わりません。
四万十をホビー文化、オタク文化の拠点に、と、周辺のシャッター化してしまった商店街や建物を利用してオタク文化特有のミュージアムを作る構想があるそうです。
例えば今年、2012年7月に同じ四万十町にオープンし、世界中から集められた1,300体ものカッパが展示されている、「海洋堂カッパ館」。
伝説の怪物「カッパ」のミュージアムは、人さと離れた「辺鄙な」四万十に、さぞマッチしていることでしょう。
町全体をホビーのミュージアムにして、日本のホビー文化の拠点にしようという、地域活性化のためのソリューションにもなっている、大きな構想なのです。
日本の産業の明るい未来を照らす
「辺鄙」という場所の特性を生かし、「ホビー」という、ニッチな文化の博物館を町と協力して次々に作ることで、町全体をホビー文化の拠点にしてしまおうという「海洋堂ホビー館四万十」。
海洋堂は、単に高い技術力を活かして、精巧なフィギュアという「モノ」を作るだけではなく、ミュージアムの立地による旅としての「非日常体験」や、「ホビー文化」という「コト」を創造している会社です。
「モノ」ではなく「コト(体験)」を作る。
これは、かつて「高い技術力」を武器に成長してきた日本の多くの産業が、今、直面している課題です。
「ホビー文化」の聖地としての価値はもちろん、そんな産業の在り方へのヒントを与えてくれる、海洋堂ホビー館四万十」は、そんな存在だったのです。
そして、その取組みが、地域活性化のソリューションになっているという点は、さらに特筆すべきことです。